ミネルヴァ

以前書いたもの、サルベージの二つ目。参照⇒11/18
内容は、去年失敗したJAXAの宇宙ミッションについて。この時期、やけに悲嘆に暮れていた。日記
今読み返してみると、暑苦しい事この上ない。気持ちばっかりで、鬱陶しい文章だ。
出しそびれたラブレターを、年月がたって読み返すとこんな感じなのだろうか?や、ラブレター書いた事無いけど。
   *   *   *
小惑星探査機はやぶさに搭載されていた探査ロボット、ミネルバは目標であるイトカワへの着地に失敗した。笹本祐一の「宇宙へのパスポート」を読んで以来、ミネルバが大のお気に入りであった僕にはショックな事件だ。
だが、サイエンスライター松浦さんのブログを読んで、ともかくは気を取り直すことにする。氏曰く「ミネルバは失敗ではない」の言葉を読んだからだ。

もとよりミネルバアメリカが搭載を予定していた探査ローバーの後釜として用意された。
理由は「勿体無いから」だ。
いや、色々はしょり過ぎだろうか、だが大意としてはそんな物だったと僕は理解している。せっかくあいてるペイロードアメリカさんがやらないならオレ達でやってやろうぜ。
そんな経緯だから、ミネルバに予算は付いていない。許されたペイロード重量もわずか500gだ。ミッションリストにも記載されてないのだ。

だから楽しい。

アメリカがローバーの計画を放棄したのは予算の問題だという。
非力な日本のロケット、それに搭載するには大きすぎたし、高価だった。リスクに会わないというのが実際だろう。
それに対して、ミネルバには予算すら用意されてない。自然と機能も限定されてくる。
というか、そんな安物が過酷な宇宙できちんと機能できるのか?
500gといえど、はやぶさにはデッドウェイトだ。役立たずでは探査機に迷惑がかかる。それでは本末が転倒だ。

少ない資金、ゆえに高価な宇宙用部材は使えない。部品の一部は、スタッフが自ら秋葉原で購入してきたという。
宇宙機に民生品を使用するのが、昨今の流れだとしてもあんまりだ。
そんなもので大丈夫なのか?

や、じつは実績は無い訳じゃない。
手に入るレベルで部品をかき集め、宇宙機を組み立て、打ち上げ運用したという話は、ある。CANSATというやつだ。
工学部の学生が、苦心惨憺打ち上げた手作りの人工衛星、その名のとおり空き缶サイズのミニ衛星だ。
運用ももちろん学生が行った。このCANSATが二年持った。もちろん衛星軌道上でだ。

今、僕は乱暴な話しをしている。
学生が作った手作り衛星と、プロの宇宙屋が手がける国家プロジェクトとを同列に語っているのだ。
だけど、それだけミネルバというメカが手作りの雰囲気を持っているということだと思ってもらいたい。

その手作りロボットは、二年以上に及ぶ飛行に耐えたのだ。
アメリカの、最先端技術と豊富な経験を持つローバーではなく。限定された状況を創意と工夫で、経験の足りない所は知恵と知識で。
それは評価されるだろうと、それだけでプロジェクトXものであろうよ、と。

すんでの所でイトカワには届かなかった、だが切り離しから18時間ミネルバは機能を維持し続け自分の状況をはやぶさに伝え続けた。最後までそのメカニズムは当初の目的どおりの仕事をしたのだ。
ほら、地上の星が聞こえてくるじゃないか。

今回のはやぶさのミッションはNASAの大いなる関心も引いているそうだ。
アメリカはNASAを中心とする宇宙開発事業の縮小を打ち出してきている。それに先駆けて、NASAもその業務の一部のアウトソーシング化を発表している。それらはすべて予算の絡みだ。
強い打撃を受けたアメリカ経済、安全対策費の重みで終には飛べなくなったシャトル
彼らの目の前で、われらが小惑星探査機は(よたよたと不恰好ながら)無事飛行を続けている。
信じられないような低予算で。

ミネルバは高価な宇宙規格の専用部材ではなくとも、宇宙を拓く事が可能だと示したと言えるのじゃないか。
そうやって胸を張るのは負け惜しみだろうか、開き直りに聞こえるだろうか。
だから少し待とう、時代が先に進むのを。
そして、安価な部材で(尚且つ十分な信頼性があり)宇宙機が作られる時代が到来すれば、そのときは声を大にしてミネルバこそがオアイオニアであると語りたい