オン・セッション

「そういえば、ライブの対バン決まりましたよ。」
アンプやらドラムセットやらを引っ張り出しながら、ヘルガ。
ふてくされるのにも飽きたのか、入念に音をあわせ始めたジルコニア
「フーン。で、どこ?」
「オーク軍です。バンド名はレイジング・トルーパーズとか。レゲェだそうなんですが・・・。」
「オークってヘビメタ厨じゃなかったっけ?じゃなければデスメタル。」
デスメタルはネルル神官団の専売ですよ。なんでも最近、オーク大王のアハルザンドがボブ・マーレイに強く感化されたそうで。ドレッドにしちゃったらしいですよ?髪型。」
「うへぇ・・・。」ジルコニアはフィーンドの血を色濃く受け継いでいる、伝説的なオークの大王の厳つい顔を思い出し、其処にドレッドヘアを加えてみた。
「強そうだ。なるべくなら夜中に暗い場所で顔をあわせたくは無いね、もらしちゃいそう。」
ジルがおどけたそぶりを交えて笑う。
冗談を笑顔で返しながら、(大丈夫です、私がいつ何時御側にお仕え申し上げております)と一人心の中で答えるヘルガ。しかも、自分自身の思考に(いつ何時って、きゃ!チョット大胆かも!)などと勝手に赤面し始めたり。
「?」 怪訝な顔でヘルガを眺めるジル。その頭上にはニンジンが浮かんでいた。ニンジンは挨拶をした(「ボク、ニンジン!」)
「あ!あっと、それからですね!」ヘルガ、声が上ずっている、しかも耳まで真っ赤。だがジルの頭上のニンジンは絶好調だった。
「一曲だけでも歌わせろと各方面から申し込みがありまして。ダークケイブの御使者が『ドロンボーのテーマ』を、元ラフイングエイプの首領のゾーク様が『愛を取り戻せ!』をご希望だとか。」
「だんだん素人喉自慢のようになってきたな、つかソレどちらもアニソンじゃんか!ライブってわかってンのかね?だいたいラフイングエイプのゾークって人死んだんじゃなかったの?」
うっと声を詰まらせるヘルガ。その助け舟は横合いから発せられた。
「だいじょーぶですよ〜、ジルコニアさま〜。人間死んでも生きられます〜。」
と、ドラウのゴーストのオリガは現れるなりジルコニアに擦り寄っていく。
「ああ、あたたかいw」
まあ、死んでるので仕方なかろう。そう思って、オリガの姉たるヘルガはぐっとこらえる。
「おまたせ〜、おねぇさん〜」
「コレで全員揃ったわね。」ヘルガは白いストラトキャスターにジャック端子をぶち込んだ、アンプが意外に大きな音を立てる。
「そうだね。準備はいいかい?オリガ。」ジルもベースを構えなおす。
「あ〜い〜」オリガはドラムセットの中心に潜り込むと、フットペダルの位置を微調整した。
「結局、色々飛び入りは入りそうですし、多分どうしようもないですよ。ライブ」
ジルに笑いかける。ジルも、仕方ないさとばかりに笑い返す。
「ま、それならそうで僕らも好きに演るさ。今日はどれから行く?」
ヘルガが短く答える。
「KISS、Love Gun!」
オリガがスティックでリズムを刻みはじめた。