なべ

入江紀子の短編マンガのどれだったか忘れたが「食べたいものを、食べたいときに、食べたいだけ作って食う。」と語る男の子が出てくる話が在る。
自炊についてのコメントで、自立した人間性を感じさせるニュアンスで描写されているシーンだ。
当時一人暮らしを始めた僕は、いたくこの言葉を気に入り、以来常にこの精神を忘れてはいない。
おかげでスッカリ太ったが(笑)

夜勤の間、突然プデチゲが食べたくなった。
プデチゲとは漢字で部隊チゲと書く。兵役のある韓国ならではの鍋だ。
内容はキムチ、魚肉ソーセージ、インスタントラーメンなど。全て配給食を使った簡単なものだ。
おそらく、一人が一種類の具材を持ち寄りミンナで鍋にして食うのだろう。
材料は普段から工夫して余らせた物ではなかろうか。そして兵舎やそれに類する場所で上官に隠れて食うのである。
とまぁ、そんなことは如何でもよろしい。僕は食べたくなってしまったのだから、食わずにいられまい。
仕事が明けて帰宅、近所のスーパーでキムチ鍋の材料を物色する事とした。
ああ、季節はもう鍋ではないのにな、今日も夜は仕事なのにな、だが食べる。断固として。

キムチはスーパーの棚から見切り品、150円也を。内容量も多くは無く問題なし。
野菜は、にらモヤシ炒めセットなる小袋商品があったのでそれを。
豚バラ薄切りパックを投入。この辺からプデチゲのもつチープさから遠ざかっていくが、まぁ仕方ない。
牡蠣が目に付いた、視界に入った以上は食わねばならない。牡蠣好きなんだ。
フライ用と書いてあるが煮たって問題はあるまい。
コレにインスタントラーメン、サッポロ一番トンコツを投入。ほら、プデチゲらしくな。
ビールを買って調達は終了だ。

まずは土鍋に湯を沸かす、しかる後にトンコツラーメンのスープのもとを溶かす。ゆっくり出汁をとる手間を省くのだ。
キムチ鍋ではもとより昆布などではベースとして弱いしね。本来ならじっくり煮出した牛スープが本場韓国風であろうが、今回は博多風でカンベンしてもらう。
キムチ投入、沸いて来たらモヤシ、にら、豚バラを。
豚が煮えた頃合いで牡蠣を投入、牡蠣の火の通り加減を見ながら鍋をつつく。
一人でとる昼食とはとても思えない(笑)
キムチとベースがマッチして大変具合がよろしい状態に。美味い。
牡蠣が思いの外味が濃く上出来。美味い。
一般に生食用の牡蠣は雑菌を徹底的に洗浄するため、旨味の元であるミネラルまで洗い流されてしまう。
だから味で言えば加熱調理用の方が上なのは当然のことなのだ。雑菌は怖いけどナァ。
で、コレはフライ用。ねべ物用として売られている物より味が濃い気がする。
うふふ、チャント鍋に入れる前に水洗いはしましたよう、僕だってそんなに怖いもの知らずでは無い(笑)
塩でひと揉みすると万全なんだそうだが、其処まではやらねぇなぁ。
ビールをグビグビ、プッハァー!
ご馳走様。
あ、インスタントラーメンが残った。麺だけ。