White Wash

(参考)6/23 
意識が急速に浮上する。
覚醒と同時に身体は自動的に防御の体制を執った。体に叩き込まれた訓練の成果だ。
「大丈夫だよ、姉さん。ここは安全だ。」
やわらかい男の子の声が語りかける。
声の方に顔を向ける、親しげな顔が自分を見つめていた。
「私は、一体?・・・。」
「大丈夫?姉さん。まだ記憶が混乱しているのかな。昨晩の作戦憶えてる?」
そうだ、昨晩の私は敵性脅威に対する破壊工作作戦に参加していた。
だが、作戦行動中に敵と遭遇戦になってしまった。
なし崩し的な戦闘開始、散発的な市街戦の最中に作戦中止の通達を受け、速やかに撤退に移った所までは覚えている。
「姉さん倒れてたんだよ、疲労でね。派手に暴れていたみたいだから。味方を逃がす為に最後までね。」
おどけた口ぶりだ。だけど目に安堵が見える。
どうやら心配をかけてしまったらしい。
私は意識してゆっくりと緊張を解いていく、訓練通りに。
すると急に脱力感に襲われた、ストンとベッドの上に座り込む。
ベッド?
スチールフレームの簡易寝台だ。
周囲を見回せば、生活臭の無い殺風景な部屋だ。
何処かのウィークリィマンションといった感じだろうか。
ハンガーに掛けられて、壁の一面にぶら下がった私の戦闘服が異質だ。
「ここはUGNのセーフハウスの一つさ、たまに使わせてもらっている。」
安心させるように優しく語りかけながら彼は私をベッドに横たえた。
「さ、もう少し眠りなよ。随分消耗しているみたいだから。」
と、その瞬間に、
ぐぅ。
私のお腹が空腹のために鳴った。
ハッとして思わず二人で顔を見合わせる、とたんに噴き出してしまった。
一しきり、二人して笑いの発作に襲われる。
笑いすぎてにじんだ涙を拭いながら彼は立ち上がり、
「OK、何か作ろう。」
「うん、お願い。」私はまだ笑いの発作が治まりきっていない。
お腹が痛くなるまで笑ったのはいつ以来かしら。
「何かリクエストは?」
「そうね、少なくとも食べられる物を。」
「了解、食べられるものですね。少々お待ちを。」
キッチンに向かおうとした彼に、私はとっさに声を掛けた。」
「・・・ハル、くん?」
「何?姉さん。」
「久し振りね。」
「うん、久し振り。」
そう言うとハル君、私の弟、唯一の肉親は照れた様に笑った。