月面の聖戦 3: 永遠の正義 (ハヤカワ文庫SF)

月面の聖戦 3: 永遠の正義 (ハヤカワ文庫SF)

21世紀の終わり、世界経済はアメリカ企業によって支配されていた。アメリカ以外の国々は、生き残りをかけてアメリカの手の届かぬ地、月の共同開発に活路を見出そうとしている。
他国の月面開発を快く思わなかったアメリカ企業群は議会に働きかける、曰く「月面に最初に立った人間はアメリカ人だ、ゆえに、月はアメリカの領土である」と。かくて議案は可決され、正当な権利の回復のため月面にアメリカ陸軍が派遣された。
そして三年。膠着した月の戦線では、勝利よりも政治活動に熱心なアメリカ軍高級将校により、兵卒の命が無為に浪費されようとしていた。

英伝門閥貴族を思い出してほしい、彼らを米軍の将軍たちに当てはめると、大体間違っていない。銀英伝の同盟の政治家を思い出してほしい、彼らをアメリカ企業体、および官僚に当てはめると、大体間違っていない。
この小説、戦争を扱っているので勿論敵は存在するが、「敵」としか呼称されず、いかなる人々なのか殆ど説明がない。主人公たる軍曹たちの、生き残りをかけた戦いの相手は、主に味方であるアメリカ相手に展開される。
作者、前作である「彷徨える艦隊」でもそうだったけど、軍人時代によっぽど士官将官にいやな目に遭わされたのだろうか?(笑)

主人公は、忍耐強く誇り高く、名誉と恥を知る軍曹だ。アメリ憲法に忠誠を誓い、ただ「正しいこと」がなされることを望んでいる頑固者だ。なんともはや、アメリカらしいアメリカの男だ。この辺、人物描写はロバート・A・ハインラインの「宇宙の戦士」を思い起こさせる。大筋は月の反乱なので、「月は無慈悲な夜の女王」かと思いきや、である。主人公たちが歩兵で、パワードスーツの描写が頻繁出てくるからかもしれない。
目新しいのは、軍人社会がクランと化していて、民間人社会と隔絶していることかなぁ。オキナワの報道とか見ていると、遠い将来、そういうこともあるかもなぁ、と感じたです。