キンケドゥブックス探索記

少年は旅人と出会った。
旅人は父よりも年嵩で祖父よりは若い様だった。そして、そのどちらにもよく似ていた。
引き結ばれた口元や、顔に刻まれた皺や、立ち振る舞いに、教師にも似た厳しさがあった。だが瞳には、少年に対する深い親愛が見て取れた。


旅人は、一冊の本を差し出した。
「この本は君の物だ」
少年は、思わずその本を受け取ってしまっていた。
立派な装丁の本。奇妙なことに、少年にはその本が、幾世もの年月を経た様にも、たった今創られたインクの匂いもしそうな新品にも思えた。
本には奇妙な異国の言葉が綴られていた。
「読めないよ?」
少年は旅人を見上げて言った。
「今はね」
旅人はそう答えた。


「他に質問はあるかい?」
今度は、旅人が少年に話しかけた。
少年は、しばし考えた後、普段から疑問に思っていた事柄を次々に口にした。
それらは、周囲の大人達を辟易させ、遂には怒らせてしまった事もある小さな質問の数々であった。
しかし旅人は、他の大人たちの様に怒り出したりはせず、一つ一つを丁寧に聞いてくれた。
それどころか、その全ての質問に、簡単だが明快に、そして分かり易く答えてくれたのだ。
少年は目を丸くした。
「すごいねぇ。きっと、分からない事はなんにも無いんだね」
「いや、そんな事は無い。わからない事だらけだよ」
少年は、この旅人にも
分からない事があると聞いて、もっと目を丸くした。