White Wash

春日の陽光がゆったりと大気を満たしていた。
一面の藤の木はいずれも満開だ。
緩やかな風の中、薄紫の花片が空に溶け出し舞っていく。
先に口を開いたのは少女の方だった。
「全てはまやかし、あなたの見せた嘘偽りだったのね。」
少年は答えない、代わりに花の様な微笑を浮かべた。
滴るような毒花の笑みだ。
「そして私を利用した。」
感情の無い乾ききった、ひび割れた声。
少年が甘えるように囁く。
「あなたは知っていた筈だよ、自分が騙されている事に。気付いていた筈だ。」
「信じたくは無かった。」
「そして僕は、あなたが気付いているのを承知で嘘をつき続けた。」
「私が悪いとでも言いたいの?」
「いや、これは小さな約束だったんだよ。あなたが覚めない事を望めばいつまでも続くね。でも、あなたは択んでしまったんだね、小芝居の幕切れを。」
大きく木々がざわついた。
「そうなんでしょう、姉さん。」
不意に風が逆巻いた、宙を舞う花弁が地から天へ立ち昇っていく。
「私を姉と呼ぶな。その姿で、その声で。」
「でもこれは姉さんの望み通りのはずだよ?声も、姿も。」
少女の諸手がすぅっと持ち上がる、その腕に渦を巻くように花片が踊る。
「あなたを殺します。」
少女の声はあくまで無情であった。
少年の体から何かがトロリとろりと周囲に染み出していく。
「姉さんにそれが出来るの?」
嘲りを含んだ笑顔で少年が答える。
少女の目が半眼に閉じられる。
長い髪がふわりと扇状に広がった。
「一度出来た事よ、何度だって出来るわ。」
いかな感情も映さぬマーブルホワイトの顔に涙が一筋流れた。